財界帝王は初恋妻を娶り愛でる～怜悧な御曹司が極甘パパになりました～

　そう考えたところで、運転席から京極さんが出てきて助手席側に回る。

　京極さんの顔は私を見ている。

「なにしている？　乗れよ。送っていく」

　立ち止まった私に低すぎない魅力的な声で命令をし、助手席のドアを開けて待っている。

　今の今まで彼のことを考えていたら本人が突然目の前に現れ、驚きすぎて一瞬立ち尽くした。瞬時に悟られまいと気持ちを無理に切り替えて彼のもとへ向かう。

「遠回りになるので、送らないでいいです」

　京極さんの住まいは東京のシンボルタワーのすぐそばにある。

「なにを遠慮している？　もう十時半だ。電車で帰宅したら十二時近くになるだろう？　早く乗れよ」

　恋人といるところを目にして戸惑いもあったが、それでも何カ月ぶりに会った京極さんとこれで別れるのは寂しい気持ちに襲われる。

「……すみません」

「すみませんじゃない。ありがとう。だろう？」

「ありがとうございます」

　そう言って助手席に乗り込み、「シートベルト締めて」と声がかかってすぐ、外からドアが閉まった。