財界帝王は初恋妻を娶り愛でる~怜悧な御曹司が極甘パパになりました~
 首を左右に振ってからにっこり笑う。

「母の用事を思い出したんです。急いで帰らなくちゃ」

 京極さんに近づきすぎないようにして、テーブルの上の装飾品をバッグの中に無造作に入れた。

「えっと、コート……」

「クローゼットだろう。取ってくる」

 カフスをつけ終えた彼はスーツのジャケットを羽織りながら、颯爽とした足取りで入り口近くにあるクローゼットへ向かい、私のコートを手にして戻ってきた。

 着せてくれたところで、再び京極さんのスマホが着信を知らせた。

「電話に出てください」

 京極さんはポケットからスマホを出して、苦々しげな表情になる。

「紗世、話すことがある。あとで連絡をする」

 話なんてわかっている。

「……京極さん、素敵な夜でした。ごちそうさまでした。電話、急用なのでは」

 お礼を伝える声が震えないようにするのが精いっぱいで、頭を下げてバッグを持つ。

 まだ鳴り続けている着信音が止まった。京極さんが拒否をタップしたのだ。

「紗世! プレゼントを忘れている。それに君をタクシーに乗せる時間くらいある。一緒に行くぞ」

 そう言った途端、またスマホが鳴る。

「わ、私、先に行きます」

 京極さんが持っているプレゼントの入ったショッパーバッグをひったくり、もう一度頭を下げてドアに向かった。
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