財界帝王は初恋妻を娶り愛でる~怜悧な御曹司が極甘パパになりました~
 涼太とは(あさ)()涼太といい、若手の超人気俳優で奈緒の恋人だ。彼の芸能事務所が交際を禁止しているため、ふたりは内緒で付き合っていた。奈緒が浅野の住むデザイナーズマンションのフロア違いの部屋に引っ越して、さらにふたりの仲は深まったようだ。

 そこで用心しなければならないのがマスコミだ。同じマンションに住んでいることで、ふたりの仲を疑う者も出てくるだろう。そこで奈緒は俺に助けを求めた。

 俺を結婚秒読みの恋人に見せかけてカモフラージュする提案だ。

 頼まれたときは馬鹿らしいと一蹴したが、何度も両手を合わせる奈緒に同情して、俺は片棒を担ぐことにしたのだ。

 美しい奈緒に顔を寄せられてもなんとも思わない。

「恋人との逢瀬を邪魔するほど野暮じゃない。彼にはまた今度にと伝えてくれ。じゃあ」

 彼女から離れると、車に乗り込み紗世を追った。

 これから帰るのか、それともあのふたりとどこか店に入るのか。もしくはタクシーをつかまえるかもしれない。

 俺は紗世が恵比寿駅に向かっていると想定して、車を走らせた。すぐにひとりで歩いている彼女を見つけ、少し先で停車させて運転席から出た。
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