財界帝王は初恋妻を娶り愛でる~怜悧な御曹司が極甘パパになりました~
 そう、彼女は綺麗だ。紗世を自分のものにしたいと思うのだから、そう考える男がいなくもないはず。

「そういえば、もう卒業か」

「はい。三月四日に」

「じゃあ、日にちを決めて食事に行こうか」

 誘いに答えない紗世に、赤信号でブレーキをかけた俺は彼女に顔を向ける。

「俺と食事は嫌か?」

「い、いいえ。いやじゃ、ないです」

 プルプルと頭を左右に振り、紗世は笑みを浮かべた。

「良かった。お祝いをしよう」

「ありがとうございます」

 約束を取りつけた俺は、浮き立った思いで紗世を文京区にある自宅に送り届けた。

 俺は三月末日に日本を離れる。もう時間がない。だから約束した卒業謝恩パーティー後に、俺の気持ちを紗世に打ち明けるつもりでいた。

 午前中、自宅で早めに仕事を片づけ、今夜のためにスーツに着替える。ビジネス用ではない、黒地に細かいグレーのストライプの入った華やかな三つ揃いだ。

 近くの花屋へ赴き花束を買い、卒業謝恩パーティーが行われている水道橋のホテルへと車を走らせた。

 約束の時間の五分前に到着し、ロビーのソファに座り紗世を待つ。

 十分ほどが経ち、ドレスアップした若者たちがロビーに姿を見せ始めた。
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