夏は愛と青春の季節
私たちはスーパーで何をやっているんだろう。可笑しくって私はコロコロと笑った。
「いいね」
突然充さんが和やかに言った。
「鈴城さんの笑顔。とてもいい、僕まで幸せになるようなそんな顔してる」
「え、いや……なんて言ったらいいのかな、ありがとう」
「こちらこそ」
柔らかい笑みでサラッとこういうことが言えるのは、やっぱり女の人の扱いが上手いのだろう。対照的に私は顔が火照るのを感じた。
おおよその人が照れくさくて言えないようなセリフでも、この人が言うとそれが仮にお世辞だったとしても、まるで本心から出た言葉のように聞こえる。
「褒められることってそうないから、ちょっと嬉しい」
そういえば、私は外で笑うことが滅多にないんだと気づく。気づいたとこで悲しいだけだけれど。
頻繁におもしろいことが転がっているわけじゃないし、何より外で話すこと自体あんまりない。
普通は友達と学校おわりに遊びに行ったりするんだろう。
ホームルーム中に、帰りどこに寄るかの相談をしている女の子達が先生に注意されていたことを思い出す。
先生が怒るのも分かる。
けれど、ホームルームが終わるのを静かに待てる私より、終わったあとの予定を、先生の話そっちのけで大真面目に会議できるあの子たちの方がよっぽど健全に思えた。
「ん? どうかした?」
腰をかがめて、首を傾げる充さんの姿がすぐそこにあった。
はっと我に返る。
「いや! なんでもないです」
手を胸の前でヒラヒラとさせる。
まさか、自分があんまり笑っていない理由が友達がいないからだと気づいてしまった、なんて口が裂けても言えない。
「雨、きつくなってきたね」
自動ドアを振り返り、充さんが言った。
ドアに打ち付ける雨がパタパタと音をたてている。店内の冷房が効きすぎているためか、やけに冷えてきていた。