夏は愛と青春の季節
三坂さんは3列向こうの斜め前に座っている。
私とはそれなりに距離があったが、今は私たちしかいないので囁くくらいの声でもはっきり相手に届いた。
「昨日、宿題出されてたでしょ? 数学の。家に持って帰るの忘れてさ、それで早めに来たの」
「そうなんだ」
平坦な声色で相槌をうったけれど、意外だなと心の中で呟いた。
宿題を忘れて、それを朝早くに来てちゃんと解こうという考えになるような子じゃないと思っていた。
失礼だけれど、友達に見せてもらうとか、そういう風に解決する人だと勝手に思っていたから、ちょっと私は興味が湧いた。
「ああ〜分かるよ。いま鈴城さん思ってること、あれでしょ? 意外だなあって思ってるでしょ」
「え! いや、そんなことは……」
言い淀んでいると、三坂さんはくるっとこちらを向いて可愛らしく笑った。
「あるんだね」
「まだなにも言ってないのに」
「わっかりやすーい。でもね、自分でも自覚あるの。そういう風に見られてるだろうなっていうこと」
「そういうふうって?」
「なんか、こう」
三坂さんは机に肘をついて考える仕草をする。
「友達を、ときに都合のいいように利用する、みたいな。あー、なんだろ難しいなあ。変な言い方だけれど、ボスみたいな……」
自分で言ったくせに、頭を抱える。そして、頭をあげたかと思うと今度は「違うよ! そんなこと1ミリも思ってないからね!」と勢いよく訂正を入れる。
私はクスリと笑った。忙しい人だなあ。
「分かってるよ。というか、今思い出した」
「なにを?」
「三坂さんいい人だってこと」
「ええー? 鈴城さん私の事しらないでしょー? 名前も初めて呼ばれたし、なんなら今ちょっと呼ばれて感動したし」
驚いたふうに大袈裟に口に手をやる。
わざとらしいけど、三坂さんのこういうところが可愛くて好かれるんだろうなと思う。