夏は愛と青春の季節
しかし、いくら探しても見当たらず、結局男性は肩を落として「すみません、もう大丈夫です。ありがとうございました」と頭をかきながら去っていった。
とぼとぼと歩く後ろ姿は小さく、少年のようだった。
相当大切なペンだったんだろうなと思いながらさっきまで男性が座っていた斜め前の席を見ると、トートバッグが置き去りにされていた。
あれ、さっきの人、手ぶらで出ていったように見えたのだけれど。
ペンを無くしたショックで気が動転していたんだろうか。
とにかく早く届けよう。
私が男性のトートバッグを手にして追いかけようとした時、ポトッと硬いものが落ちる音がした。
「ペンだ……」
それは回転式のボールペンで、ボディにはローマ字で”mituru”と刻印されていた。
若そうに見えたあの男性の持ち物には思えない年季の入ったものだった。
ボールペンをトートバッグにしまい、すぐさま中帝図書館の入口まで走ったが、さっきの人の姿はなく、時刻はまもなく18時をさすところだ。