夏は愛と青春の季節
今までビクともしなかった鈴城さんが「うぅーん」と身じろいだ。
聞かれていなかったかな。と不安になりつつ「おはよう」と声をかけてみる。
「ううん、ん。……ん?」
目をぱちくりさせている。ガラス玉のように透き通った目を大きく開けて僕を見た。
「よく寝てたみたいだね」
「い、いつからここに?」
「さっきだよ。気持ちよさそうだったから起こせなかったんだ」
寝起きだからだろうけれど、久しぶりに鈴城さんが目を合わせてくれた。最近は目を合わせるどころか避けられていたから、すごく嬉しい。
「起こして良かったのに」
「やっと目、見てくれた」
「……ああ、えっと……そういえば私、ちょっと先生に用事があるんだったけ」
鈴城さんは目を泳がせながら立ち上がろうとする。
「先生なら帰ったよ」
「そ、そうですか」
「なんで、避けるの?」
もしかして、思い出したの? という言葉を飲み込んだ。
鈴城さんはスカートの裾をキュッと掴んで首を振った。
「避けるなんて、そんな」
「じゃあどうして? こっち見てよ」
のぞき込むと、顔を真っ赤にしている。
「恥ずかしいから……目、見れない」
小さく震える声でそう言った鈴城さん。これは、もう歯止めが効かない。そんなの、反則だろう。
「………そう、恥ずかしいの? ただの研修生で、時々図書館で話す程度の僕と目を合わせるのが……恥ずかしい?」
意地の悪い聞き方をする自分が嫌になる。試すように、罪のない彼女を責めるようなことを言う。