夏は愛と青春の季節
*
「なんてね! びっくりした?」
充さんはパッと両手を広げ、ニコッと微笑んだ。思考が1ミリたりとも働かず呆然とする。
えっと、なんだこれ、どうなっているんだ。
「おーい。鈴城さーん、あれ固まっちゃってる」
「……え、っと」
「ほら、僕いつも生徒に囲まれてた時、助けを求めてたのに鈴城さんあっさり見捨てちゃうからさ、ちょっと意地悪しちゃった。あ、それともこのまま続きしちゃおうか」
「いやいやいやいや」
「冗談だよ。ごめんね、やりすぎか」
「やり過ぎですっ」
「じゃあ、約束して。もう僕のことは避けませんって」
言うまでここから出さない、と物騒な脅しをされて、契約書まで書かされそうな勢いで
正直どうしてそこまで私に? と疑問に思ったが、しっかり指切りまでした上で私は開放された。
「暗くなってきたし、送るよ。帰ろう?」
有無を言わさず、私の手をとって図書室を後にする。
「充さん今、先生なのにこんなことしてもいいの?」
「もう誰もいないからいいの。大丈夫、暗くて見えないよ」
「いいのかなあ」
キョロキョロとあたりを伺いながら歩く私と、全然気にせずスイスイ進む充さん。
と、昇降口まで来たところで突然足を止めて振り返った。
「あ、ごめんちょっと職員室にカバンだけ取ってくるから、ここで待っててもらっていい?」
どうやら、充さんはよくカバンを忘れるのかもしれない。
急ぎ足で引き返していく充さんの背中を見送る。離れた手が寂しいなあと思い、そんなふうに感じた自分に苦笑いした。