夏は愛と青春の季節









「なんてね! びっくりした?」



充さんはパッと両手を広げ、ニコッと微笑んだ。思考が1ミリたりとも働かず呆然とする。

えっと、なんだこれ、どうなっているんだ。



「おーい。鈴城さーん、あれ固まっちゃってる」

「……え、っと」

「ほら、僕いつも生徒に囲まれてた時、助けを求めてたのに鈴城さんあっさり見捨てちゃうからさ、ちょっと意地悪しちゃった。あ、それともこのまま続きしちゃおうか」


「いやいやいやいや」

「冗談だよ。ごめんね、やりすぎか」

「やり過ぎですっ」



「じゃあ、約束して。もう僕のことは避けませんって」


言うまでここから出さない、と物騒な脅しをされて、契約書まで書かされそうな勢いで


正直どうしてそこまで私に? と疑問に思ったが、しっかり指切りまでした上で私は開放された。



「暗くなってきたし、送るよ。帰ろう?」


有無を言わさず、私の手をとって図書室を後にする。


「充さん今、先生なのにこんなことしてもいいの?」

「もう誰もいないからいいの。大丈夫、暗くて見えないよ」

「いいのかなあ」


キョロキョロとあたりを伺いながら歩く私と、全然気にせずスイスイ進む充さん。
と、昇降口まで来たところで突然足を止めて振り返った。


「あ、ごめんちょっと職員室にカバンだけ取ってくるから、ここで待っててもらっていい?」


どうやら、充さんはよくカバンを忘れるのかもしれない。


急ぎ足で引き返していく充さんの背中を見送る。離れた手が寂しいなあと思い、そんなふうに感じた自分に苦笑いした。

< 31 / 32 >

この作品をシェア

pagetop