あの日の夢をつかまえて
第1章
第1話
「大丈夫?香夜子の彼氏、崖っぷちなんでしょう?」
夏。
夕食時。
久しぶりの実家、貴島家のリビングに、季節はずれの木枯らしが吹いた。
「ちょっとお姉ちゃん!今はそんな話、いいじゃない!」
慌てて姉の真理子の肩を小突いた母も、
「頑張ってるのよね?光臣くんだって、ねぇ?」
と、探るような目つきで尋ねてくる。
「あったり前じゃなーい!もぉ、やめてよぅ、崖っぷちとか言うの!」
出来るだけ明るい声で返すと、ふたりは「そっか、そうよね」と言って、おかずを口の中へせっせと運んだ。
父だけはまだ難しい表情をしていたけれど、私はそれを見なかったことにする。
本当は。
今夜、将棋棋士をしている同い年の恋人の澤田光臣こと、みぃくんとごはんを食べる約束だった。
でもみぃくんに急用ができたらしくて。
……だから私は気まぐれに実家に帰ったんだけど。
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