あの日の夢をつかまえて
(帰ってこなけりゃ良かったな)
実家を出たのは3年前。
25歳の夏だった。
理由は簡単。
ひとり暮らしをしてみたかったから。
(ごはんを食べたら、すぐに帰ろう)
お箸を置いて手を合わせていると、
「香夜子、ちょっと来て」
と、姉が手招きをしながら2階に上がった。
追いかけるように姉の部屋に入ると、
「私、決まったから。結婚」
と、ほんのり頬を染めた姉が報告してくれた。
「えっ、おめでとう!」
「ありがとう。まだ結婚式のことは具体的に決まってないけれど……、彼がこの家に挨拶しに来る時には、香夜子もここにいてね」
「うん、わかった。また日時が決まったら知らせてね」
4つ年上の姉が嬉しそうに微笑む姿が、夢いっぱいの少女のように見える。
「いいなぁ」
思わず本音が口からするりとこぼれた。
「香夜子のほうは?」
姉が遠慮がちな目を向ける。