あの日の夢をつかまえて

(帰ってこなけりゃ良かったな)



実家を出たのは3年前。

25歳の夏だった。

理由は簡単。

ひとり暮らしをしてみたかったから。



(ごはんを食べたら、すぐに帰ろう)



お箸を置いて手を合わせていると、
「香夜子、ちょっと来て」
と、姉が手招きをしながら2階に上がった。

追いかけるように姉の部屋に入ると、
「私、決まったから。結婚」
と、ほんのり頬を染めた姉が報告してくれた。



「えっ、おめでとう!」

「ありがとう。まだ結婚式のことは具体的に決まってないけれど……、彼がこの家に挨拶しに来る時には、香夜子もここにいてね」

「うん、わかった。また日時が決まったら知らせてね」



4つ年上の姉が嬉しそうに微笑む姿が、夢いっぱいの少女のように見える。



「いいなぁ」



思わず本音が口からするりとこぼれた。



「香夜子のほうは?」



姉が遠慮がちな目を向ける。

< 2 / 51 >

この作品をシェア

pagetop