あの日の夢をつかまえて
「結婚の話とかしてないの?私が言うのもなんだけど、香夜子ももう28歳だよ?」
「うん……」
部屋の中に流れる微妙に重い空気に耐えきれず、私は笑顔を見せて、
「まぁ、私のことはいいよ!真理ちゃん、おめでとう!」
と手を振り、部屋を出た。
1階に戻り自分の鞄を持つと、
「私、帰るねー!ごちそうさまー!」
と両親に言い、足早に玄関を出た。
むんとした夏の夜道を歩きつつ、スマートフォンを取り出す。
(みぃくんに会いたい)
急用って何だったんだろう?
もう用事は済んだかな?
ダメもとでみぃくんに電話をかけてみた。
コール音3回。
『ーーーはい、香夜ちゃん?』
低い、落ち着いたみぃくんの声に、耳元から幸せが押し寄せてくる。
「みぃくん、用事って終わった?」
もしも何も用事がないなら、会いに行きたい。
『師匠に呼ばれていたけれど、今帰ってきたよ。……来る?こっち。香夜ちゃんは今どこ?』