あの日の夢をつかまえて

寒いねーって言い合いながら、駅までの道を歩いていると。

すれ違った背の低い男性が、
「澤田さん?」
と、振り返って立ち止まった。



みぃくんも立ち止まり、男性のほうを向いて小さく息をのんだ。



(誰?)



みぃくんが緊張している。



「知り合い?」



小声で尋ねる。



男性は、
「澤田さん、何やってるんですか」
と、責めるような口調で近づいてきた。



みぃくんは何も言わない。

ただ、男性をじっと見ている。



「オレ、勝ち進んでますよ」



その言葉で、この男性も将棋界の関係者だと思った。

多分、将棋棋士なんだろう。

男性がニヤっと笑った。



「オレは、勝負の世界から逃げたあんたとは違う」



その言葉にカッとなり、
「ちょっと!」
と、声を出してしまう。



「いいから」
と、みぃくんが私を見た。



その目が言っているみたいだった。

口を挟まないでって。



「……澤田さんは今、何をしているんですか?」



男性は私を鬱陶(うっとう)しそうに睨みながら、みぃくんに尋ねる。

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