あの日の夢をつかまえて
「大丈夫だよ」
私はそう言って、みぃくんの背中を優しくさすった。
「みぃくんは、みぃくんの将棋を全力で指してきなよ」
「うん、ありがとう」
優しい声でそう返してくれたみぃくんだけど。
私にはわかってしまった。
その声にまだ緊張の色が濃く残っていること。
【澤田光臣四段、順位戦で絶望的か】
小さな記事だったけれど。
今朝目にした、みぃくんのインターネットニュースの見出しの文字。
やだな。
こんな時に思い出すなんて。
『大丈夫?香夜子の彼氏、崖っぷちなんでしょう?』
不安な言葉まで耳の奥のほうでよみがえってきた。
私は。
自分に言い聞かせるように「大丈夫」を、小さく繰り返した。