朝、キスして。
「幼い頃からの顔なじみってだけで、友達と変わらないって」
「そりゃそうだけどさ……」
「周りが勝手に特別にしてるだけ。気にするだけ時間の無駄だよ。たかが幼なじみなんだから」
「うちもそこまで割りきって考えられたらいいのかなぁ……」
着がえ終わった私は、足早に更衣室を後にする。
彼女が言ったことは何も間違っていない。
“自分の知らない思い出を持っている”
“自分よりもその人のことをわかっている”
無敵に見えるそれらの要素はすべて幻で、周りが特別にしているだけ。
“ただの幼なじみ”
私もそう思う。
“友達と変わらない”
その通りだと思う。
……なのに、どうしてだろう。
『たかが幼なじみ』で片づけられたことに傷ついている自分がいる。
幼なじみに戻れないと思っていたはずなのに……。
私は今、その関係にしがみつこうとしている。
どうして?
いつの間にか作っていた拳。
爪が食い込むほど強く握りしめていた。