朝、キスして。
“有咲”
その名前を出したら、森下は足を止めた。
そして、振り返る。
「なんのこと?」
「有咲とハルをくっつけようとしてるだろ」
「……お似合いだと思ったから薦めてるだけだよ」
全然お似合いじゃねぇよ。
──と焦る気持ちは抑えて。
「そういう外野のちゃちゃが1番困るんだよね、有咲のことが好きな俺としては」
「っ!」
俺が本心を伝えれば、森下は一瞬、驚いたように目を開いた。
だけど、すぐに表情が戻る。
「好きって……。幼なじみでしょ。長く一緒にいるからそう勘違いしてるだけじゃないの?」
皮肉な話で、昔はよく逆のことを訊かれた。
「幼なじみだから好きなんじゃないの?」って。
聞き慣れた質問に答えは用意済み。
恋愛感情はないという意味で、「ただの幼なじみだよ」と答えていた。
長く一緒にいるからそう勘違いしてるだけ?
違う。むしろその逆だ。
長く一緒にいたから気づけなかった。
俺にとって有咲は、ただの幼なじみなんかじゃない。