朝、キスして。

塞いだ手を下ろした俺の耳に飛び込んできたのは、鮮明かつ衝撃的な言葉だった。


「さっきまで有咲もいてさ。瞬と森下がデートするって有咲も聞いてたんだよ」

「はぁ?」

「引き止めたけど、帰っちゃって」


なんでそうなるんだよっ!

この短時間でとんでもねぇところまで話が飛び火してやがる。


「追いかければ、まだ間に合うかも!」


考えるまでもなかった。

吉田に言われて、俺は校舎を飛び出す。


「吉田、ありがとう」

「おう!頑張れよ!」


出る間際、振り返ってお礼を言えば、吉田は笑顔で送り出してくれた。


一度でもドジを踏めば俺に明日はない。

そのくらいの気持ちで慎重になっていたけど、こうなるくらいなら先に伝えておけばよかった。


俺の恋は駆け引きじゃないんだ。

誠実でいなければいけなかった。


誤解や噂、誘惑。

雑音は日常茶飯事で入ってくる。

だからこそ、雑音の中でも信じられる音になれるように。


言葉にしなきゃいけない。


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