朝、キスして。

大したことじゃないんだろう、とは思う。

けど、なんだろう……。

どことなく瞬の笑顔がぎこちないような気がする。


「1つは、誤解を解きたくて。……もう1つは」


瞬はためらうみたいに言葉を切った。


一度、私から視線を外し……また元に戻す。


そんな不安定な行動は、瞬らしくなくて。

私までざわざわと不安定に心が揺れる。


次に瞬が口を開いたとき、出てきたのは記憶を呼び起こす言葉だった。


「宿泊研修のとき、俺が『有咲の言葉だけ信じる』って言ったの憶えてる?」

「うん」


憶えてる。


宿泊研修の2日目。

私とハルくんがキスしてたって噂になっちゃって、違うって否定したのに広まってしまった。


そのあと瞬が、ハルくんとの間に何があったのか訊いてきて……。

“有咲の言葉だけ信じる”

って言ってくれたんだよね。


否定してもなかなか信じてもらえなかったから、瞬にそう言ってもらえて嬉しかった。


あのときの言葉も光景も、耳をかすめる声も。

……それだけじゃない。

瞬にしてもらったことは全部、脳裏に焼きついている。

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