朝、キスして。

“信じる”って、思っているよりずっと難しい。


喜び、愛しさ、安らぎ、期待、哀しみ、焦り、疑い、憎しみ……。

感情が入る余地なんていくらでもあって、好きな相手ならもっと乱される。

時には、噂のようにわざと乱すような言葉も投げ込まれて……。


それだけ心は不安定で、言葉には魔力がある。


信じるのがどれだけ難しいことか、瞬もわかっていると思う。

……それでも、あえて言葉にして伝えてくれた。


もしかしたら、これだけは信じられる!ってものがなくても、信じたいと思える心さえあればいいのかもしれない……。


向かい合う瞬は、少し硬いような……でも、穏やかな表情を見せる。


「これから先、今日みたいなことがあっても俺を信じて。惑わされそうになっても、俺の言葉を思い浮かべて」


帰ってきたばかりで、電気が点いただけの音のない部屋。

どんな囁きでも声は届く──。


「他を気にする余裕があるなら、俺は1分1秒でも有咲のことを考えていたい。

──好きだよ、有咲」

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