朝、キスして。

瞬を怒らせたいわけじゃない。

うまく言葉にできないだけ。

でも、嘘は言っていない。


そんな頑張りをするくらいなら、私の答えを聞いてほしい。


「なんでそう言いきれるんだよっ」

「だって私、もう瞬のことが好きだもん!」

「だからって…………、は?」


瞬は時が止まったみたいに表情を固めた。


“好き”って言葉を口にするのに、どのくらいの時間がかかったかな。


自分の気持ちに正直だった昔の私。

「瞬のことどう思ってるの?」と訊かれたら、「好きだよ」と素直に答えていた。


だけど、一度だって瞬に「好き」と伝えたことはなかった。

私にとって“好き”は自分の中にあるもので、相手に伝えるものではなかったから。


大きくなると、気持ちを伝えるのに勇気が必要だって気づいて、余計に言えなくなってしまった。


かかった時間は、私の人生のほとんど。

長かった。

でも、無駄じゃなかった。


「今、なんて……。俺の聞き間違い、じゃないよな……?」

「聞き間違いじゃないよ。好きって言った」

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