朝、キスして。

「やりたかったからいいの」

「そういうところが頑固なんだって、有咲は」


顔を上げて睨む。

下の名前で呼ばないで、とその目で訴える。


「はいはい“渡辺さん”ね。……なんで有咲じゃダメなの?」

「知り合いだって思われたくない」

「でも、うちのクラスにもう1人渡辺さんいるじゃん。紛らわしくない?」


ぐぬぬ……言い返せぬ。

ああ言えばこう言うんだから。


「とにかく。必要以上に話しかけないで」

「やだ」


頬杖をつき、悪魔的な笑顔を見せてくる瞬。


今なんて言った、この男……。

やだって言った?


「なんで」

「幼なじみだから」


瞬がどういうつもりでそう言ったのかわからない。

面白がっているだけなのか、深い意味はないのか。


……ただ。


もう幼なじみじゃないと私が一方的に思っているだけで、瞬は違うのかもしれない。

と瞳の奥に宿す強い光を見て思った。


「お、書き終わった?」


強い眼差しが消えて、いつもの瞬に戻る。

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