朝、キスして。

用があったり話し相手がほしかったりで、私が優雨ちゃんの席へ行くことはあっても、優雨ちゃんの方から挨拶しにくるのは珍しい。


「おはよう」


驚きつつも挨拶を返せば、優雨ちゃんは私に向けていた視線を瞬に移した。

そして、意味深なことを言う。


「昨日はありがとう」

「うん」


昨日……?


瞬が短く返答したってことは、そのひと言だけで何に対する感謝なのかわかるってこと。

だけど私は、全然身に覚えがなくて首を傾げるしかない。


その瞬間、ほぼ凪ぎだった風がそよそよと窓から入ってきて、カーテンを揺らした。


まるで私の心を揺さぶるみたいに……。


「昨日って?」


訊き返してよかったのか、訊き返さない方がよかったのか。

わからないけれど、どちらにせよ結果は変わらない。


「まだ話してなかったの?」


「いま話そうと思ってた」と前置きして。

「昨日、吉田ん家から帰るとき優雨と会って、男に後つけられてるみたいだったから家まで送ったんだよ」


「え……」


紡いだ瞬の話に、私は言葉を失う。

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