朝、キスして。
EP.10*俺が彼氏だけど?
「……は?」
瞬から漏れる怪訝な声を無視して続ける。
「だって、もし本当にストーカーだったら危ないじゃん。それで諦めてくれるかわからないけどさ、1人より嘘でも誰か頼れる人がいた方がいいでしょ」
知らず知らずのうちに早口になっていた。
間違ったことは言っていない。
そう思うことでしか、自分を保てない。
「マジで言ってんの?」
「マジで言ってるよ。優雨ちゃんが心配だから」
心が縛りつけられたみたいにズキンと痛む。
瞬の顔が見れなかった。
声のトーンから明らかに怒っているのがわかったけれど、一度出てしまった嘘の正義を今さら取り消せない。
優雨ちゃんは事の成り行きを見守るみたいに黙っていて、瞬は反論を呑み込むみたいに口を噤む。
周りは賑わっているのに、ここだけ時が止まったように静か。
だけど、その沈黙は時間にしてみればわずかだったと思う。
ぐっと握り拳を作ったあと私は、
「トイレ行ってくるね」と言って立ち上がった。
沈黙を破りたかったんじゃない。
一刻も早く、その場から逃げ去りたかった。