朝、キスして。

木曜日の夜10時すぎ。

バイトが終わって店を出ると……。


「瞬!?」

「おう。終わったの?お疲れ」


私服姿の瞬がいた。

フードを被っているから最初、誰だかわからなくてドキッとした。


「どうして?」

「とりあえず歩きながら」


そう言って歩き出した。

あの男のお客さんはいないようで、私はほっと息をついてから瞬の隣に並んだ。


夜の空気は好き。

凛とした風や匂いが清々しいから。


だけど、今こうして空気を感じられるほど落ち着いていられるのは、隣に瞬がいるからだと思う。


そういえば、この前会ったのは帰り道に偶然だった。だけど今日の瞬は、明らかに待っているみたいだった。


『しばらく瞬が彼氏のふりしてあげれば?』

もしかして……。


「有咲が言ったこと本気にしてる?」

「してねぇよ」

「ならどうして?」

「んー……」


考えるように間を置いた瞬。

その間に1歩2歩と足を進める。

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