朝、キスして。

続いて、ドタドタと廊下を走る音。

ふふ、忘れ物かな?


好き勝手に想像を立てながら頭と身体をタオルで拭いて、着がえのTシャツに手を伸ばす。


──今後の教訓としてここに記しておく。


たとえ、幼なじみで昔からの馴染みの家だとしても。

洗面所のドアは閉まっているから安全だとしても。


そこは男の子の家であること。

そして、彼氏の家であること……。


絶対に忘れてはならない!

絶対に気を抜いてはならない!


「えっ……」

「は……?」


洗面所のドアが勢いよく開いた瞬間、時間が止まる。


ドアを開けてそこに立っていたのは、親子なのに瞬ママとは似ても似つかない──瞬だった。


たった一瞬、それでも濃く長い時間のように思えた刹那の間のあと、絶叫がこだまする。


「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ご、ごめん!」


大してない反射神経をフル活動させてしゃがみ込む私。

瞬はドアを閉めて視界から私をシャットアウトした。

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