朝、キスして。

それを自覚しているのか瞬は、深く息を吐く時間を置いてから静かな声で謝ってきた。


「いやうん……ごめん。調子乗った」


バスタオルを取って、身体を覆うように私の肩にふわりかけてくれる。


なんだか主人に怒られた犬みたい。

別に怒ってるわけじゃないのに。


可愛くて愛おしくなって……私は無意識に手を伸ばして、瞬の頭を撫でていた。

そのときに気づいた。


「あれ?濡れてる?」


瞬の髪が湿っていることに。


「あー、うん。コンビニで傘パクられて。買おうか迷ったんだけど、近いし……走って帰ってきたからちょっと濡れた」


それで帰ってきたとき、バタバタ足音を鳴らして洗面所に直行したんだ。


2人してマヌケだ。

こんなところでシンクロしなくてもいいのに。


でも……。


傘をパクられて雨に濡れて……不運続きで最悪だと思っていたのに、瞬と一緒なら最悪じゃないかもって思える。

不幸の中から幸せを見つけ出す──みたいな?


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