朝、キスして。
「でも、有咲はもっと怒ってもいいと思うけど」
すべてを話し終えて、ハルくんが言う。
「怒る?……むりむり。私、あまり人に怒れないもん」
「瞬には怒ってる」
「瞬にはね。幼なじみだし、それに瞬って無神経でデリカシーがなくて自分勝手で」
距離を置いていたのにずかずか踏み込んできたり、パニクってとんでもない発言したり。
つき合ってないのに『俺のものにする』って宣言されたこともあったっけ。
思い出しながら限りある嫌みを絞り出しているときだった。
「へぇ。誰が無神経だって?」
俯いていた私の耳に、わかりやすいくらい不平不満を乗せた声が届いた。
ぱっと顔を上げると、声と同じ感情を顔に乗せる張本人に視線を絡め取られた。
いつの間にか目の前に立っていた瞬。
「瞬!?」
鏡で確認してないけど、たぶんこのときの私は幽霊を見てしまったくらいの驚きを見せていたと思う。