朝、キスして。

だけど同時に、もしかしたら知らないうちにハルくんを傷つけていたのかも……って怖くなった。


「私は……」

「わかってる。返事はいらない。そういうつもりで言ったんじゃないから」


とそのとき。

ハルくんの後ろからパタパタと足音が聞こえた。


振り返るハルくんの先に、走ってやってきた瞬が見えた。


ハルくんは私に向き直って。


「有咲が今みたいに逃げ出したくなったとき、もしその先に誰かいるなら俺がいたらいいなって思った。それだけだから」


そして最後に、



「逃げたくなったらおいで」



滅多に見せない優しい表情と声でそう言った。


ハルくんは踵を返して、瞬の横を通りすぎていった。

< 301 / 343 >

この作品をシェア

pagetop