朝、キスして。
「うんそっか……」
「気づいてたんだよね?ハルから聞いた」
「そ、そうなんだ……。うん、気づいてた」
「いつ気づいたの?」
私がそう訊くと、有咲は視線を落とした。
「前に見ちゃって……。優雨ちゃんが瞬に、その……キス、するところ」
言いにくそうに言葉を切りながら口にしたのは、本当は答えるのさえ嫌であろう真相の断面。
何を言っているのかすぐには理解できなかった。
いつの話?とさえ思った。
だって、実際にはしていないから。
そういえば、ハルは『有咲も知ってる』と言っていた。
“気づいてる”じゃなくて、“知ってる”って。
気のせいで済ませられないような光景を目の当たりにして、確信するしかなかったんだ、有咲は……。
私の表情や態度から気づかれたのかと思っていたのに、真実はもっと残酷だった。
「してないよ」
「……?」
「直前で思いとどまってしなかった」
「そうだったんだ……」
「……でも、したかどうかじゃないよね。しようとしたのは事実だし……ごめん」
今さら事実を伝えたところで、有咲を傷つけたこともそういう行動に出たことも覆らない。
自分の行動がいかに浅はかだったかを思い知る。