朝、キスして。

意味深な笑みを浮かべた直後──その緩んだ唇が、呆然としていた俺の唇を奪った。


表現として正しい。

奪う、奪い取る、かっ攫う。

人の心を盗む怪盗なんて相手にならない。


強引かつ荒々しく。


俺は奪われた。


突然の感触に驚く時間もなかった。

有咲の舌が俺の口をこじ開けて、ぬるりと入ってきたからだ。


熱くやわらかい感触。

俺の口のなかで好き勝手に暴れて。

理性を絡み取ろうとしてくる。


「……ふぁ……っ、……んっ……」


漏れる荒い息づかいが、さらに俺をかき立てて。


「しゅ、ん……っ」


悔しくて仕返ししてしまった俺の負け。

あんなに頑張って耐えたのに──その熱には勝てなかった。


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