朝、キスして。
声に乗せるよりも先に、ハルくんが口を挟んだ。
氷王子──その名にふさわしい、凍てつく声で。
「それにキスもしてない」
「でもあたしら見たし」
「そっちが勝手に勘違いしただけだろ」
「証人はたくさんいるんだよ?」
その言葉に、ハルくんが嘲笑を送る。
「だからなに?……おまえら、事実をねじ曲げて噂話流すの得意じゃん」
氷王子の目で吐き捨てた。
怒っているわけではないのに……怖い。
こんな言葉厳しめなハルくんを見たのは初めてで。
一瞬、場が凍ったよね。わかりやすいくらい。
そんな状況にも関わらず私は、かっこいい!と心の中から拍手を送る。
動揺を見せず、毅然とした態度。
初手を間違えた私では、どうしたって立て直せなかった。
ハルくんにそこまで言われて、さすがに口を噤んだ森下さん。
ただ、その口元は不平不満を持っていて。
ぼそり。
「なんか庇ってるみたい」
そう呟いたのを私は聞いた。