その騎士は優しい嘘をつく

「だが、あの男はアンの腰に手を回していたんだぞ。普通、嫁の妹にそういうことをするのか？」

「いや。考えてもみろよ。あのアンネッテだよ？　アンネッテ、何もないところでよくつまずいているじゃないか」

　ロルフのその言葉に、ハイナーは眉根を寄せた。

　そう、思い出したのだ。
　一緒に歩いていても、彼女は何もないところでよくつまずいて転びそうになっていた。なんでそんなところで？　とハイナーは思うのだが、彼女に言わせると少し段差があったらしい。そういうときはよく、ハイナーも彼女を支えていたものだ。すると、彼女は白い頬を薄紅色に染め、恥ずかしそうに御礼を口にする。

　ハイナーはつぶれたパンの残りを勢いよく口の中に放り込んだ。自分がきちんと確認しなかったことを悔やんでいる。