その騎士は優しい嘘をつく
 彼女が浮気をするようなそういう女性でないことを、一番知っているのはハイナー自身ではなかったのか。なぜ、彼女にあんな酷いことを言ってしまったのだろう、と。

「ハイナー。もしかして、後悔してるのか?」
 目の前の男が不憫に思えて、ロルフは声をかけた。最後の一口を飲み込んだハイナーはゆっくりと頷いた。
 もしかしなくても、後悔している。

「遠征の前にさ、アンネッテともう一度話をしろよ。これから一年も会えなくなるんだぞ? 彼女ならわかってくれるから、さ。お前、こういうことに慣れてない上に不器用だしな」

 ハイナーは頷くことしかできなかった。たまにはこの部下もいいこと言うな、とも思っていた。

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