その騎士は優しい嘘をつく
 彼女に別れを告げた日。ハイナーは、彼女に結婚の申し込みをしようと思っていた。つまり、プロポーズというもの。それは、この遠征の話があったから。プロポーズをして、自分が帰ってくるまで待っていて欲しい、と言いたかった。
 もちろん、そんなことは彼女には内緒。伝えたいことがあるから、と言って約束を取り付けた。

 だけど、その前日に目にしてしまったその光景が信じられず、口から出た言葉は結婚の申し込みの言葉ではなかった。

 他に好きな人ができた、だから別れて欲しい――。

 彼女に渡すことができなかった婚約指輪が、今でもハイナーの部屋で眠っている。
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