その騎士は優しい嘘をつく
　ただ彼女には困ったことが一つだけあった。
　アンネッテが彼を治療する度に、彼女の心臓がうるさく騒ぎ出すのだ。それでアンネッテは、親友のカイリにそのことを相談することにした。
　カイリはこの魔導士団の事務官を務める女性で、彼女の兄は騎士団に所属しており、第二騎士団の副団長を務めている。相談するにはもってこいの相手だった。

　カイリとその兄ロルフのおかげで、アンネッテは見事、憧れのハイナーに気持ちを伝えることができ、お付き合いを始めることになる。
　初めはぎこちなかった二人だけれど、二人で時間を共有していくたびに、お互いにお互いを思いやるようになり、お互いにお互いを求めるようになった。二人がそのような関係になるまで、そう長く時間はかからなかった。

　しかしそんな治癒の女神と裏で呼ばれるようなアンネッテにも一つだけ欠点があった。それは、料理が苦手、ということ。

　初めて彼に手料理を振舞った日、彼は「美味しいよ」と言って全部食べてくれた。だけどアンネッテは自分で食べて、それを美味しいとは思えなかった。きっとハイナーなりに気を遣って、そう言ってくれたんだろうな、と思った。

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