その騎士は優しい嘘をつく
 ハイナーは優しい。だから、彼は優しい嘘をつく。
 アンネッテはそれにすぐに気付いた。いつも彼を見ていたアンネッテだから気付いたのかもしれない。

 どうしても料理がうまくなりたい、彼に心から美味しいと言わせたい、とアンネッテは思うのだが、本の通りに作っても、五回に一回は失敗してしまう。その失敗した料理を、ハイナーは美味しいよと言って食べてくれる。
 だから、姉に相談した。アンネッテより四つ年上の姉は既婚者だ。その配偶者がこの街でもわりと有名なレストランで働いているシェフ。やはり教えてもらうならプロだろうと思って、姉に相談したのだ。そこから、義兄に話がいき、彼がレストランの休みの日の水の日の夜に料理を習うことにした。

 あの日は、次の日にハイナーから会いたいと言われていたため、義兄の力も借りて、ハイナーが好きなお菓子作りに挑戦していた。
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