その騎士は優しい嘘をつく
 だから彼女はハイナーに自分で作ったお菓子をあげたかった。それをあげて、遠征から無事に帰ってくるのを待っている、と伝えたかった。

 義兄監督の元、作ったお菓子は無難にクッキー。工夫したところは、もちろんハイナー好みの味付け。見た目は少々悪い。
 義兄が、せっかくだからラッピングもしてみたらどうだ、と言ってくれた。そのラッピングを解くというのも、お菓子を食べる前の楽しみだから、と。
 なるほど、料理に携わっている人は、その料理の美味しさだけでなく、見せ方や楽しみ方まで知っているんだな、とアンネッテは感心してしまった。

 あの日も、クッキーを作り終えた足で、義兄やその関係者がよく利用するというその料理の専門店を教えてもらった。調理器具はもちろんのこと、そのお店はラッピング類も扱っているらしい。
 ハイナーにはどれが似合うかな、と考えながら、それを選ぶのはとても楽しい時間でもあった。彼はこれを喜んでくれるかな、と。
 あまりファンシーな柄にしては、彼が恥ずかしがるだろうし、だからってシックなものにしても禍々しい感じもする。ファンシーとシックを足して二で割ったような、落ち着いたラッピングを選んだ。それに作ったクッキーを入れて、リボンで留める。
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