その騎士は優しい嘘をつく
 ああ。やっぱり遠征の件だろうか。行かないで欲しい、とは言わない。言ってはいけない。重い女にはなりたくないから。笑顔で彼を送り出し、涙で彼を迎えたい。

「他に好きな人ができた、だから別れて欲しい」

 彼は優しい嘘をつく。

 それを耳にしたとき、アンネッテの頭上に雷が落ちたような衝撃が走った。何か言いたいのに言葉が出てこない。言いかけた言葉を飲み込む。やっぱり言いたくて口を開くのだが、やっぱり言えない。

「わかりました」

 彼は優しい嘘をつく。
 だから、アンネッテはそう答えるのが精いっぱいだった。

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