その騎士は優しい嘘をつく
 だから、すれ違いが生まれた。

「ちょっと待っててくださいね」
 カイリは紙にペンを走らせる。
「本当は、私の立場から教えてはいけないんですけど。ハイナーさんだから特別です。でも、ハイナーさん、明日から遠征では?」
 はい、と手渡された一枚の用紙。そこに記載されている住所。

「まあ、アンは間違いなくそこにいると思います」

「ありがとう。君が言う通り、俺は明日から遠征で長くここを不在にする。だから、手紙でも書いてみるよ」

「そうですね。それが良いと思います。アンも喜びますよ」

 カイリは、ハイナーがアンネッテへ行った仕打ちを知らないようだ。
 ロルフもわざわざ妹に伝えるようなことはしなかったのだろう。カイリからは、愛し合う二人が遠距離恋愛になってしまう、ようにみえたのかもしれない。
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