その騎士は優しい嘘をつく
 カイリからもらった住所を握りしめ、ハイナーは宿舎へと戻った。明日からの遠征に備え、本日は昼前で訓練は終了。今日の訓練は名ばかりで、明日からの遠征に向けての最終確認だった。

 ハイナーは長期不在に備えて、宿舎の片づけは終えていた。本当であれば、今日もアンネッテに会おうとしていた。十日程前までは、そう思っていた。だから時間が作れるようにと、こつこつと片づけをしていたのだ。
 だから時間は充分にあった。

 君が浮気をしているのではないかと疑っていた。
 君のことが好きだ。だから、遠征から戻ってきたら結婚して欲しい。

 伝えたいことはたくさんあり、それを言葉にするのだが、文章にすると安っぽく感じてしまう。それに、結婚して欲しいなんて、こんな手紙で伝えてもいいのだろうか、とか。そんな変な葛藤が湧いてくる。

 そうやってペンを走らせるたびに、アンネッテと過ごした日々が思い出される。
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