その騎士は優しい嘘をつく
 だから、自分の傷痕のせいで、彼女にそのような負担を強いるようなことはしたくなかった。

「君の、その気持ちだけ、受け取っておく。もう、この傷は痛まないし、生活に支障はないからな」

「そうですか」
 ふと、彼女が寂しそうに手を引いた。
 だから、ハイナーは思わずその手首を掴んでしまった。

 彼女が自分に好意を寄せている、というのはロルフから聞いて知っていた。だから、自惚れていたのだろう、と今になって思う。
「君は、俺のことが好きなのか?」
 と、気付けば聞いていた。

 彼女の顔は、みるみるうちに夕焼けのように染められていく。

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