その騎士は優しい嘘をつく
 彼女が手渡したそれは、落ち着いた深みのある薄い赤のラッピングで包まれていた。そこに映える紺のリボン。リボンに手をかけ、その中身を確認する。
 形の悪いクッキーと、いくつか割れたクッキーが出てきた。そして、一枚のメッセージカード。

『あなたを待っています。どうか、お気を付けて』

 彼女は知っていたのだ。
 ハイナーが遠征で長らくここを離れることになり、二人が離れ離れになってしまう、ということを。一年の間、会うことができなくなる、ということを。
 それでも『待っています』というメッセージ。彼女はどのような気持ちでこれを書いたのだろう。
 そのような彼女がどうして浮気などをするのだろうか。

 ハイナーは、形の悪いクッキーを口元に入れた。それはとても優しい味がした。
 それは、ハイナーが好きな味だった。

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