その騎士は優しい嘘をつく
 ドン、と拳で机の上を激しく叩いた。机がその勢いで震え、机を叩いた拳がほんのりと痛み出した。

 アンネッテに会いたい。
 アンネッテに会って、謝りたい。
 できることなら、また彼女と一緒にやり直したい。
 だけどそれは我儘かもしれない。

 ハイナーがこの長期休暇にやるべきこと。それは彼女に会いに行くこと。それだけだ。

 カイリから渡された住所を確認すると、この宿舎からは歩いて一時間ほどの距離。
 遠征からの荷物を片付け、いろんな事務的な作業も終えた二日後。その住所を頼りにハイナーはさ迷っていた。
 あまり訪れたことの無い場所だったので、すれ違う人に尋ねると、青い屋根が特徴的な家であることを教えてもらった。

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