その騎士は優しい嘘をつく
 談話室へと案内された。姉が手際よくお茶の準備をする。
「今、アンを呼んでくるから、ちょっと待っててくださいね」

 目の前に出されたお茶は、ゆらりゆらりと湯気を立てていた。今、自分の気持ちはこの湯気のように不安定だ。息を吹きかけられれば、その軌道をすぐに変えてしまうような。
 アンネッテに拒絶されたらどうしよう、というその気持ち。

「ごめんなさい、ハイナー。お待たせしてしまって」

 その言葉と共に姿を現したのは、一年前に別れたアンネッテだった。一年前と違うのは、少し髪の毛を短くしている、ということ。少しやせてしまった、ということ。
 そして……。

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