その騎士は優しい嘘をつく
「アンは浮気をしていた」

「は?」
 ハイナーの言葉に、すかさずロルフはそう言うしかない。

「あのアンネッテが? あり得ないね。あいつ、お前にべた惚れだろ? 見ているこっちが恥ずかしくなるくらいに」

 そこで、ロルフはスープを勢いよく飲み干した。目の前の同僚ではなく上官がわけのわからないことを言っているからだ。

「ハイナーさ。なんでそう思ったのか、俺に言ってみろよ」
 俺は恋の天使だぜ、恋の悩みは俺に相談しろよというロルフの心の声が聞こえたような気がした。
 はあ、というあきらめのため息と共に、実は誰かに言いたくてしょうがなかったそれを、ハイナーは口にする。

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