その騎士は優しい嘘をつく
 こうやって向かい合ってしまうと、言葉が込み上げてくるのだが、それが全て喉につかえてしまう。

「それで、謝りたいことって何?」
 恐らく、彼女がそう言わないと、必要な情報が引き出せないと思ったのだろう。
 そう言う彼女の目は、怒っているわけではない。いつものように優しさに溢れた目。

 ほら、怒らないから正直に話しなさい、といたずらをした子供から情報を引き出す母親のような顔をしていた。この場合、怒らないからと言って正直に話をすると怒られるパターンが一般的であるのだが、果たしてアンネッテの場合はどうだろう。

「その……。あの、まあ。あれ、だ。その、一年前。俺は君に酷いことを言った。あれは、嘘だ。その、君の他に好きな人などいない。あのときも今も、俺が好きなのは、アンネッテ、君だけだ」

 ハイナーは一生分の勇気を使い切ったのではないかと思った。先日まで対応していたあの魔物討伐でも、こんなに緊張したことはない。

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