その騎士は優しい嘘をつく
「まあ、俺だって休みは不規則だ。だから、久しぶりに会おうという約束をしたら、水の日の夜は会うことはできない、と言い出した」

「何か、定期的な用事があるんじゃないのか? 勉強とか習い事を始めたとか」

「俺もそう思って理由を聞いたんだが、教えてくれない」

 ふーん、とロルフは頷くことしかできない。

「それに。その俺と会うことができないと言っていた水の日の夜に、アンは他の男と二人で歩いていた」
 思い出して腹が立っているのか、ハイナーは手にしているパンをつぶしそうな勢いで握りしめていた。

「俺には会うことができないと言っておきながら、他の男と会っているなんて、立派な浮気だろう?」

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