その騎士は優しい嘘をつく
「きっと、あなたのことだから。私の妊娠を知ったら、行かないとか言い出すんじゃないかな、っても思ったの」
 あまりにも謝り続けるハイナーを見て、アンネッテはそう口にした。だが、彼女の考えは間違っていない。その遠征を断り、彼女の側にいただろうと思う。騎士団を辞めてでもそうしていただろうと思う。

「だから、あなたに言わなかったのは、わざと。大事なことを黙っていてごめんなさい」

 ハイナーは顔をあげた。傾きかけた太陽によって、彼女の頬が橙色に染められている。

「なんか。俺たちは謝ってばかりだな」
 ふっとハイナーは息を吐いた。
「その、一年。俺がいなくて不安じゃなかったか? その、一人ではない身体で。側にいることができなくて悪かった。君を助けられなくて、その……」

「ハイナーはずっと私の側にいてくれた」

「え?」

「ずっと、ここに」
 アンネッテは、今はぺたんとへっこんだお腹に、愛おしいものを包み込むように両手を当てた。
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