その騎士は優しい嘘をつく
思いやる人
 カフェで話をし終えた二人は、買い物を再開させた。ハイナーとしては今すぐにでも隣の女性を抱きしめたい気分であったが、さすがにこのように人が多いところでとるような行動でもない。
 それは今日の夜に期待したいところではあるのだが、何しろ彼女の姉の家。そして、手と目が離せない赤ん坊がいる。
 いつになったら、無事に営めるのかという変な不安が押し寄せてくる。

「ハイナー。私ね、この一年で料理はずいぶん上達したのよ」
 買い物を終えたアンネッテは、ハイナーを見上げて言った。ハイナーの右手はしっかりとアンネッテの手が握られ、その反対の手には買い物袋がしっかりと握られている。
「だからもう、ウソはつかないで」

「わかった。努力する。どうしても君に格好いいところを見せたくて、君に嫌われたくなくて。今までは君に本心とは違うことを伝えていたときもあった」

「でも、バレバレだったけどね」
 うふふ、とアンネッテは楽しそうに笑った。

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