その騎士は優しい嘘をつく
「まあ、あれはあれで、個性的な味で。食べられないほどではなかったから」

「個性的な味。うまいこと言うわねー」

 彼は優しい嘘をつく。だけど、その個性的な味という表現は、嘘ではないらしい。

 夕飯を終え、少し休んでから、入浴の時間となる。
 ハイナーはハイネスを風呂に入れてみた。アンネッテに聞いてはいたもののなかなか難しい。だけど、湯船の中で自分の分身のような子を抱いていると、なぜか顔がほころんできた。
 遠征が三年や五年とか、長期でなくてよかったとも思えてきた。この子の成長を見ることができなかったら、悔やんでも悔やみきれなかったかもしれない。

 頃合いを見計らって、アンネッテが広げたバスタオルを手にして浴室へとやってきた。ハイナーはハイネスを彼女に手渡した。その小さな身体からは、ほかほかと湯気が立っていた。
< 57 / 85 >

この作品をシェア

pagetop